「まあ、なにも知らなければ美羽ちゃんの考えは当たり前のことだよ。むしろこうして話してやっと知るくらいでいいんだ」

ツネさんはそう言って、正面に見えてきた大きな病院を見据えた。

「三上くんは優秀な部下でね。今回の美羽ちゃんの件もいち早く相談を受けていたんだよ。悠月という男が風見理を名乗って美羽ちゃんに接触してきたその日に、ひったくり犯に遭遇したろ?」

「えっ、同じ日でしたっけ?」

まったく意識していなかった。
言われてみれば同じ日だったような気もするが、目の前でひったくりの犯行があり、それをものすごい速さで小太郎さんが捕まえたことの方がインパクトが強かった。

私が驚いていると、ツネさんは少し考えるように「たしか…」と首をかしげた。

「悠月が複数のスマホを所持していて、仕事用というにも多いほどだと言っていたよ。ひったくり犯が受け身をとったことといい、悠月が急に現れて美羽ちゃんに接近してきたことといい、あまりにも違和感があると言っていてね…」

「スマホ!?まったく気にしてもいませんでした!」

やつがどんなスマホを使っていたかなんて、記憶の片隅にもない。
そんなところまで見ていたという事実に唖然とする。

「ははは、そりゃそうだよ。一般人に分かるようならこちらも仕事がなくなっちまう」

「でも、仮にいっぱいスマホを持っていて怪しいとしてもそれが何に繋がるんですか?」

「言い換えれば、三上くんが美羽ちゃんのそばにつねにいる時点で、つけ狙う犯罪者には対象者にSPがついていると気づかれやすい」

ツネさんの説明を聞いて、色々な出来事の点と点が繋がっていく。
いつの日からか、そういえばずっと隣を歩いてくれていた小太郎さんが不自然に少し後ろを歩くようになったのも、そういった事情があったということだ。

「鬼塚さんが来てくれるようになったのは…」

「カモフラージュの意味もあったんだよね。本当のところは美羽ちゃんには内緒でSPの人数増やしてたの。見えないところにも複数人つけてたんだよ。三上くんだけじゃないよー、鬼塚くんもいるよーって。ほんとはもっといるけどねーってね」