個室だから誰もいないのだが、私は慌てて挙動不審にあたりを見回してしまった。
突然、なんてことを言い出すのか!

「やだ!どこから聞いたの!」

「お父さん全部知ってるわよ」

一瞬、頭がくらりとした。


────あぁ、やはり父は一週間前のすべてを把握していた。いや、当たり前といえば当たり前か。
なにが起きて、どんな経緯でそうなったのか、報告しなければいけないのだろうから。

あの日、身の危険が迫っているかもしれないと感じ、万が一のことを思ってGPSを起動させ、父でもなく、その時にそばにいた鬼塚さんでもなく、どこにいるかも分からなかった小太郎さんに電話を繋ぎ続けた。

誰がどう聞いたって私が彼に想いを寄せているのは分かることである。

それにしたって、個人情報保護法的なものは私にはないっていうの?


「美羽は一番間近で見てきたもんね、警察官っていうお仕事を。だからきっと、色々と思うこともあるんじゃないかなって」

思っていたよりも真剣なトーンで話す母に、私はすぐに小さくうなずく。

「お母さんがお父さんを心配するあまり、美羽に見せてきた姿は、もしかしたらトラウマを植えつけてしまったかもしれない。それは謝らなきゃ」

「ううん、そんなことない。…家族でゆっくり出かけた思い出もないし、お父さんが急に呼び出されて、それでも無事に帰ってきた時は、一緒に喜んだりもしたね」


両親との記憶は、父が警察官だからといって嫌な思い出ばかりではなかった。むしろ、楽しい思い出の方が断然多かった。
それは、両親が私を有り余るほど愛してくれたからこそ、そう思えるのだ。

父のそれは度を超えていたけれど。

ふふ、と笑っていたら、母がゆっくりと手を離した。

「なにを幸せだと思うかどうかは、自分で決めていいのよ。………たとえ、お父さんが邪魔したとしても」

「…お母さん。最後の一言、めっちゃ怖い」

母はこらえきれずに大笑いしたのだった。