講習会の会場に置きっぱなしにしてきた私の仕事用のバッグ、ホテル通路に落ちていた書類、地下駐車場に落ちたパンプス。
一緒に入っていた“風見理”の名刺は、思い出したら嫌でしょう、と母がこれでもかというほど、細かくちぎり捨てた。

彼が偽名を使ってまで私に近づいてきたのは、計画的なものだったのだ。
本を探しに私の働くお店に来て、声をかけてきてわざわざ本を買い、そしてカフェまでつけてきた。

本当はもっとずっと前から、彼らは情報を集め、共有し、小出しにして試してきたに違いない。

捕らえられた時、縄があまりにもきつく締められていたのか、手首にはまだ青い痣がぐるりと残る。
それはさすがに服から見えてしまうので、手首には包帯を巻いてもらっていた。


「……美羽」

手首の包帯のズレを直していたら、母に話しかけられ「ん?」と顔を上げた。

なんとなく言い出しづらそうな、それでもなにか覚悟を決めたような顔の母が、私の両肩をあたたかい両手が包み込む。

「こんなことを…お母さんが言うのは変かもしれないわ。でもお父さんがいない今だから言うわね」

「どうしたの?」

「あなたがもし本当に三上くんを好きなら、お母さんは応援する」

「えっ!」