…こんな人が警察のトップにいるなんて、日本はもう終わった…。
娘可愛さのためにこんなことを言う人が……

─────警視総監だなんて。


父の後ろに、彼がいつも座っているであろう重厚感あるデスクが置いてある。
そのデスクの上にしっかりと見える、『警視総監 折笠公生』の文字。

「信じらんない、堅物オヤジ!」


腹が立った私が悪態をついたタイミングで、コンコン、と部屋のドアを叩く音。

ひとつ咳払いをした父が、私には普段見せないようなキリッとした表情へ変わると「どうぞ」と少し声を張り上げた。


「失礼、します…」


恐縮したような声とともに現れたのは、私の知っている人だった。
数時間前に、私をクラブから連れ出してくれた、あの若い男の人。
その時に着ていたカジュアルなデニム姿ではなく、今はスーツを着ていた。

背はとても高いけれど、クラブで男たちを倒したとは思えない細身。
どこにそんなパワーが?もしかして気づかなかったけれど、あの時はスタンガンを持っていたとか?


「ご苦労。君も掛けなさい」

父が先程とは違う警視総監の顔で彼を手招きし、私の隣に座るように促す。

彼はその場で少し戸惑ったように口を結んだが、チラッと私を見て会釈すると改めて父の方に向き直り、丁寧に深く頭を下げた。


「警視庁捜査一課警部の、三上小太郎(こたろう)です。失礼します」

三上、と名乗った彼はゆっくりと私の隣に腰を下ろす。少し間をあけて。

かなりの緊張が見えるので、父の立場は相当なものなのだとこういう時に実感する。