ある王国に、一人の、それはそれはたいそう美しく女性がおりました。

その美しさは、どこにいる令嬢をも追い抜き、彼女とすれ違った青年の心までもあっという間に奪いとってしまうほどでした。

決して裕福とは言えない家庭に生まれたその女性はその国の王に見初められ、最初は断っていたのですが、王の強い気持ちに揺るがされ、ついに結婚しました。

王には既に王妃がいましたが、政略結婚ということもあり、自分のことを愛してくれていたので、大して気にはしませんでした。

結婚して数ヶ月は、二人の愛は深かったものの、王は他の女性にも目移りするようになりました。

ほんのお心の変わりもあろうと、初めは多目に見ていましたが、王が三人目の妻を娶ったことにより、彼女の心の中には不安が広まります。

王は、ひょっとしたら、自分に飽きてしまったのではないか。

結婚してからは、毎日部屋を訪れて下さっていたのに、今では週に一回しかお会いしない。

此方が伺いたいと申し上げると、会ってはもらえるが、どうも自分に心を開かれているようには見えない。目は合っているのに、王の気持ちが全く読めない。

本当は自分を通して別の誰かを見ているのではないか。

もしかしたら自分のことが嫌いになってしまわれたのでは。

考えれば考えるほど、負のループへと繋がっていく。
良い方に考えようとしても、不安が新たな不安材料を生み出し、強迫観念から逃れることはできない。

誰にも頼ることのできない苦しみから、ついに自分を、自分だけを愛してくれない憎しみと哀しみへと変わり、彼女は狂ってしまいました。

どうして王は自分、いや自分だけを見てくれないのか。

彼女は自分の涙が枯れ果てるまで泣き続け、悲しさからもう二度と戻らぬ人となってしまいました。

彼女が亡くなってしばらくすると、彼女の枕元から一人の恐ろしいほどに歪み、醜い魔女が現れて王に向かってこう言いました。

「私はお前が憎い。お前を誰にも愛されないようにしてやる。」

その言葉が発せられたと同時に、魔女の持っていた古びた杖から眩しい光が放たれ、王の身体を包みこみ、それはそれは小さい、10代にも満たないような男の子に変えてしまいました。

「この呪いはそう簡単には解けまい。」

王が謝罪の言葉を述べると、

「ならば、少し釈明の余地を与えてやろう。肩に蓮のアザのあるおなごを探すのだ。そして、結婚せよ。さもなくば、その呪いは永遠に受け継がれることとなろう。」

ハハハハという轟轟とした魔女の笑いはたちまち城を覆い、嵐が吹き荒れた。


そして、それから、どれほどの時が流れたのだろうか。