「友達といっても、小さい会社をやっているので、素人仕事でなくプロ並みにしないといけないと思ったんですよ」
「なるほど」
「15万円もくれるのなら、いい加減なことはできません」
「えっ!」
 和代が声をあげ、カフェの隣の席の人が一瞬振り向いた。
 あっ、つい口を滑らせてしまった、と彩香は思った。和代はびっくりしている。それでも素性を知らせたわけでもないし、問題はないと彩香は思う。
 そそくさと荷物を片付ける彩香とともに和代も立ち上がり、慣れた手つきでラップトップやファイルフォルダー、筆記具の袋などをバッグに入れる。
 和代はさすがに衝撃を受けた様子だった。
「…いいですね、今までやったことのない商業イラストをいきなり任せてくれるなんて…。私もそんな知り合いが欲しいです」
 彩香は曖昧に笑顔を作りながらカフェを一緒に出た。
「本日はどうもありがとうございました。とても助かりました。お気をつけて」
 彩香は一礼して駅に向かって歩き出した。和代が反対方向に向かってゆっくり歩き出すのを見て、彩香はホッとした。