「おーい、ましろ?いるかー?」
この田舎にはインターホンも呼び鈴もない。そこまで古い建物ばかりというわけでもないし、その気になれば取り付けられるのだが、昔からこの村ではそういった類のものは使われないのだ。
優しい人たちばかりだから盗難などが一切無く、また、皆が皆親しいので、声をかけて返事がこないうちに上がり込むのが常なのだ。
「……ゆう?」
やがて、カラカラと戸を引く音がして、ひょこりと青年よりも小さな少女が、白いワンピースを身につけた身体を覗かせた。太陽の光が、柔らかな黒色の髪に反射してきらりと輝く。
瞳を縁取るまつげも柔らかく光り、くりくりとした大きな瞳が瞬いた。
彼女の名前は月島ましろ(つきしまましろ)といって、青年──藤田優夜(ふじたゆうや)の友人の1人だった。


