確かに良いところだった。東京にいたころは知らなかった、空に浮かぶ月と星の美しさも、水道から出る水の美味しさも、深呼吸するたびに肺に広がる新鮮な空気の味も、彼にとっては全てが新鮮で、両親が気に入るのも分かる気がしたから。

出て行く者が多い中でこの田舎に来るという人はほぼいない為、彼を含んだ家族はその当時は大変珍しがられたものだ。
どうして、なんで、という疑問ばかりを投げつけられて、戸惑っていた頃が懐かしい。
青年は思い出してふふふ、と笑う。

夏の暑さと冬の厳しい寒さだけは快適な東京の便利モノに慣れた身体にさすがにこたえたが、今ではそれさえもこの村の良いところだと思う。
それに村人は皆温かく、野菜や米を分けてくれたり、店の場所や村人たちに馴染めるように会合を開いてくれたりもした。そこも、良いところだと思う。