それでも、きらきらと光を受けて輝く稲穂を見ているのは悪くない。そう思えた。

「(あっちぃなぁ…ほんと)」

大きなビルや建物もない、クーラーが効いたコンビニやショッピングモールもない、美味しい空気と水だけがあるこのドがつくほどの田舎の村に彼が引っ越してきたのは去年の春。
特に深い理由はない。
以前に、やたらと自分たちが知らない未知のところへ出掛けたがる青年の両親が電車を乗り継ぎ見つけたこの村のことを、両親共に気に入っただけのことだった。
良いところがあるのよと嬉々として語り出した母親に、美しい森と川、空気も澄んでいて最高なんだと目を輝かせた父親も加われば、彼もそこが気になり出す。

聞く話全てに惹かれたし、そして、そこに住みたいと2人が言い出すのにそう時間はかからなかった。