「…秘密基地、ではないけど、秘密の場所、的な?私のお気に入りの場所だよ」

「こんなところがあったんだな。蛍なんて初めて見た」

「だと思った。ゆうにはここを知って欲しくて、だから連れてきたんだ」

そんな顔もできたのか、と思った。してやったり、みたいな、年相応の少女のような、そんな顔が。いたずらが成功した子どものように、無邪気な笑顔だった。
ここに来るまではしゃいでいた笑顔とはまた違う、無邪気さが混じった笑顔。

「私だけが知るにはもったいないから」

「他の人には教えなかったのか?」

「言ったところで、森に入ったことを咎められるだけだよ。だから、私だけが知っていればいい、って最近まで思ってた」

「…良いのかよ。そんなところ、俺なんかに教えて」

「なんかじゃないよ。言ったでしょ、ゆうには知って欲しかった、って」

教える価値があるってことだよ、とましろは言った。

そこまでの信頼を得ていたのは素直に嬉しかった。ぴちょん、と何かが落ちる音がしてふっと顔を水面に向けるが、もう水面は揺れていなかった。なんだろう、この音は。
ぴちょん。まるで……そうだ、まるで、蛇口から垂れた水が水の入った皿に落ちるような、そんな音だ。
……目の前の池でないのなら、どこから音がしているのだろう。