──そこは、幻想的とでもいうべき景色が広がっていた。
蛍だった。
拓けた場所に池があったから風が吹いたのだろう、空に浮かぶ月の光を分けてもらったかのような優しい蛍の光がいくつも飛んでいる。
草に、木に、その光がぽうっと灯っていて、水の上をすいすいと別の光たちが飛んでいる。
ふと見ると、水面に映し出された光がゆらゆらと揺れて、別の場所でふわりと光が水面に触れた。
また水面が揺れる。
ゆうらりと月も揺らいで、まるで揺り籠に眠る赤子をあやすような、そんな印象を受けた。だとすれば虫の歌声は、月の子守歌と言ったところだろうか…。
すぅ、と息を吸って、吐いてみる。水場特有の少し湿り気のある、それでもすっきりとした優しい空気の味がした。


