トントン

ドンドン


私は隣りに響くように必死で壁を叩いた。


すると、玲於は、びっくりした表情で玄関を開けてドシドシ入って来た。


「里穂はどうした?大丈夫か?」
息を切らしながら心配そうに私を見つめた。


「い、今、これ、投げつけて帰った…」


「これ?妊娠検査薬?」


「家にあったからやってみてって言ったら、怒鳴って帰ったよ。妊娠…嘘なんだよ」

私は、妊娠が間違いだった安堵感と裏切られた気持ちが交錯し、震えが止まらなかった。


「奏音…大丈夫、俺がいるから」
玲於は、私を抱きかかえソファーに横に寝かせた。

玲於は、私の頬を手の甲で優しく撫でた。
「奏音、一緒にいてやればよかったな」


私は頭を横に振った。
「いいの、いずれこうなったんだから」


「それにしても、なんの為に妊娠したって言ったんだろう?」
玲於が、不思議そうに私を見つめながら言った。


「うん、私もそう思うけど…やっぱり玲於が好きだったからじゃない?気持ち確かめたかったのかもしれない」


「でも、俺は喜ぶどころか好きな女が出来たと言った……うーん」


「里穂は、何で玲於が、好きな人、奏音じゃないよね?って言ったんだろう。何でわかったんだろう?」


「まだまだ裏がありそうだな。気をつけろ」

そう言うと、玲於は、私の唇に、優しく自分の唇を重ね合わせた。そして、玲於の舌が私の口の中を甘酸っぱく激しく襲う。深く強く私達は愛し合った。


私は、翼の事は完全に頭から消え失せていた。