「あ、あの店、オシャレで良くない?」
里穂は、一流ファッションモデルを目指しているだけあって、オシャレなものには、人一倍敏感である。


「うんうん、いいね。行こ行こ」
私は、いつも里穂のペースに巻き込まれているが、それが何とも心地よい。





「いらっしゃいませー」
店内はアンティークな雰囲気を醸し出し、落ち着きを増す安定感があった。


「私はブラック」
里穂は、カッコよくオーダーする。

コーヒーの飲めない私は少し羨ましい。


「私はダージリンティーお願いします」
私はいつも決まって紅茶を注文する。



「ねぇねぇ、奏音、今日まだ時間ある?」


「無くはないけど…どうした?」
私は不思議そうに尋ねた。


「ねぇ、そろそろ私の彼氏に会ってみない?」
里穂はニンマリしながら、何か企んでいるかのように私を誘ってきた。


「いや、まだまだいいって」
私ははっきり断った。


「なんでよ?もう半年経つんだよ。親友なら、会ってよ」


「まぁ、そうなんだけどね。」
人見知りが激しい私は、どんな顔をして、会ったら良いか分からないし、里穂の彼氏もモデルらしくて、なんか凡人の私は気おくれしてしまう。
そういう理由もあって、断り続けて、現在に至る。


「ねぇねぇーお願い。ここ奢るからぁ」


「だって、3人とか、困るょー」


「じゃぁ、もう1人誰か連れてきてもらおうか?」
里穂がとんでもないことを言い出した。


「ダメダメー無理」
私は必死で止めたけれど、里穂は既にテーブルを離れ、電話をしていた。



私は、視線を窓の外に見える桜並木に移した。
「ああ、どうしよう?親友の彼氏に会うなんて初めて」


実は、私にももちろん彼氏はいた事は数回あるが、一度も里穂には、紹介したことがない。


理由は、簡単で、里穂が綺麗すぎるから。
モデルをしている里穂に一目惚れでもされたら……という思いで、会わせる勇気は無かった。


だから、私も里穂の彼氏に会うのはいつも遠慮していた。


しかし、今回は、里穂は結婚も視野に入れてるようで、いつも以上に、私に会わせたがっていた。