それから、10日後、私は玲於と会うことになっていた。
待ち合わせ場所は、例のアンティークなカフェ。
いろいろな思い出が詰まった場所である。


「あの頃はまだ桜が満開だったなー」
私は窓から見える木枯らしを見て、そう呟いた。今はもう随分肌寒くなってきた。店の中だが思わず体を丸めてしまう。


玲於が、少し寒そうに扉を開け、店に入って来た。私は本当は気まずいのだが、誤魔化すために、笑顔で軽く手を振る。


「こんにちは。久しぶりだね」


「ああ、元気だったか?変わりはないか?新しい生活は大丈夫か?」
玲於は、私を気遣って優しく聞いてくれた。


「うん。楽しくやってるよ。それより、入籍の日、連絡出来なくてごめんなさい。私の知らないうちに婚姻届出されてたの」

私は連絡出来なかった経緯を説明した。

「なんだ?どういうことだ?」


「私が化粧室行ってる間に翼が1人で婚姻届出していたの。それからすぐに引っ越し業者が来てね、バタバタと……」

私は冷静に冷静にゆっくり話をした。


「待て。翼、勝手に婚姻届出したのか?」
玲於は怒りを込み上げている。


「ああ、うん。でも、もういいの。今幸せだから」

私は、玲於の感情を沈めようと努力した。


「奏音、お前、里穂の事はなんて聞いたんだ?」


「入籍した日に、里穂すごい怒って翼に会いに来たの。その時、2人の関係を聞いたわ」


「なんて翼は答えた?」


何でそんな詰め寄るの?
玲於、心配しなくても大丈夫だよ。


「うーん、正直、里穂に付きまとわれて困ってたって。でも、私の親友だから、私にはずっと言えなかったって」

私は一語一句明確に伝えた。


「ああ、あいつそうやって誤魔化したのか…」
玲於は深い溜息をもらす。


「ん?何?まだなんかあるの?」


少なくとも私は今はとても幸せ。
翼とも仲良くやっている。
多少の過去はもう目をつぶるつもりだ。