「はーっ、ついた〜!」

学校の生徒玄関で、イケメンくんが叫ぶ。


なんとか間に合ったの……かな?

あたしはとにかく息を吸うことで精一杯。


するとイケメンくんが、繋いだままだった手をパッと離し、あたしの背中を優しくさすってくれた。


「悪い、大丈夫か? ごめんな」


「だ、大丈夫……」


なんて優しいのこの子……。

濡れた子犬みたいな顔しやがってこのやろう!


「あっ、そーいや名前言ってなかったな! 俺は篠崎蒼依(シノザキ アオイ)。よろしくな!」


篠崎くんは、八重歯を見せて、太陽みたいな笑顔をあたしに向けた。

その笑顔に、ちょっとドキッとしてしまうあたしがいる。


「あ、えっと、あたしは橘花翼。よろしくね!」

同じようにあたしも笑った。


「先に入学式だったよな? 体育館あっちだっけ」


高校の案内所もロクに見ていないあたしは、おとなしく篠崎くんのあとについていく。



入学式10分前。

体育館内は、まだ多少ざわついていた。


とりあえず、湊を探そう……。

キョロキョロ辺りを見回すと、案外すぐ見つかった。

こういうとき、センサーが発動してくれて助かる。

湊センサー。


あたしは篠崎くんと別れ、湊の方に向かう。


ズンズン歩みを進ませ、お友達と楽しそ〜にお話している湊の前で止めた。


「湊!」


あたしが名前を呼ぶと、湊はこちらを向く。

「あ、翼じゃん。ずいぶん遅かったけど」


むーかーつーく〜〜っ‼︎

誰のせいで朝から迷子になったと思ってるのよ‼︎

……まぁ、100%湊のせいだとは言えないんだけど!


あたしは無言で湊を睨みつける。


……こいつ、橘花湊(タチバナミナト)。


あたしの双子の兄。

茶色がかったふわっとした髪に、切れ長の目。

背も高いし、頭も良く、運動神経も抜群。


モテ要素ありまくりで、中学時代は……悔しいけど、モテていた。

ま、まぁ、あたしも負けず劣らずって感じだけどね⁉︎


……でも、湊はなにをやっても1番で、あたしは到底敵わなかった。

だから、いつしかあたしは湊に敵意むき出しで接していた。


こいつには、絶対負けたくない。


そう思い続けて、努力をしてきた。

あたしなりに、精一杯。


なのに……あぁもうっ‼︎ なんで追いつけないかなぁ⁉︎


ていうか、女子のみなさん気をつけて!

こいつ、外見はいいかも知れないけど、性格は最悪だからっ!

だまされないで‼︎



「この子が、さっき言ってた湊の双子⁉︎ まじでそっくり!」

「ちょーかわいいじゃん‼︎」


湊の周りにいた男子が、あたしを見て騒ぎ立てる。


ふふ、わかってるじゃない男子たち。


すると、湊があたしを指差して言った。


「あーやめといたほうがいいよ。こいつ、外見はこんなだけど中身珍獣だから」


そのとたん、男子たちは爆笑しだした。


……は?なんも面白くないんだけど?


あたしの中身が珍獣ですって⁇


「はぁぁ⁉︎ ありえないんだけどこのバカ湊っ‼︎」


あたしが怒鳴ったところでタイミングよく放送が流れ、あたしは用意されてあったパイプ椅子にドカッと腰を下ろした。