「ねぇ、最悪なんだけど。アイツと同じクラスになっちゃった。ほら、岡田悠介」

俺には友達がいない。

「あー、アイツでしょう？どっかの高校の生徒を流血させたっていう」

理由は分かっている。この目付き、イカつい顔。それだけで十分。ありもしない噂をたてられて、あっという間にボッチになった。

学校の中で俺のイメージは、｢怖い人｣で固定だ。

それでも手を出される訳ではなく、穏やかな日々が続いていた。どちらかと言えば、喧嘩は強い方じゃないから有難いが。

「ちょっと、どいてもらって良い？」

女としては少し低い、落ち着いた声に俺は過敏に反応してしまう。

「あ！お、おう」

ドタバタと机から立ち上がって、チラリと彼女を見ると、少し困ったような表情をしていた。

「ごめんね、そこ私の席なんだよね。君の席は前だよ」

「え、え？まじで？ごめん間違えた」

「大丈夫。私、小野彩月。よろしく」

はにかんだ彼女見て、胸が痛くなった。

彼女の表情は、まるで水で溶いた絵の具のように薄くて、色が出なくなっていた。

「お前、さっき見た」

登校中に桜の木の下にいた。

「え？会ったっけ？」

「いや、やっぱりなんでもないわ」

俺の初恋の人だった。

「やば、小野さん岡田と話してるよ」
「チャレンジャーだね」