焦って表札を再確認する。
うん、大丈夫、川崎って書いてる。
「あぁ、リリーの友達か?」
「え、リリー?」
王子がそう言ったので、リリーが誰なのか真剣に考え込んだ。
…。
いやいや、誰だ?
そんな友達はいないけど。

「あー、リリーの言うとおりなー!
小さいっ!ははー」
「こぉら、ルイ。ちゃんと挨拶してよー」
王子の奥から川崎さんの声が聞こえてほっとした。

この眩い王子は川崎さんの旦那様のルイさん。
身長はそこまで高くはないけど、
手足が長くスタイルがいいから普通にモデルみたいだ。
顔は大宮課長とは、別ベクトルでかっこいい。
イケメンと言うよりはハンサムな美しい王子様と言いたくなる顔。
アッシュブラウンの髪に、若干たれ目でエメラルドグリーンの瞳。
顔は恐ろしいほど小顔で、
あぁ、私は明日から自分の顔の大きさに悩むことになりそうだ。
「ルイと申しまっす!君は?」
「あ、えと、南ゆずです」
「ゆず?…あー、みかんみたいなやつか?
いいなー!おれ、みかん好きな」
王子が目を輝かせてそう言った。
「ちょっとルイ、そういうこと言わないの。
ごめんね、ゆずちゃん」
「あははっ!いいんです。
みかんみたいなやつですよ、はは」

部屋へあげてもらうと、リビングルームで
ワイングラスを片手に
窓際で立っている男性が目に入った。
年は30代前半ぐらいだろうか。
短髪でおしゃれな黒ぶちメガネをかけており、
細身だけど、ガリガリじゃない。
いかにも、おしゃれなカフェとかにいそうなこじゃれた印象。
顔はイケメンの部類に入るだろう。
「ゆずちゃん、この方は、旦那の職場の同僚の竹田さん」
と、川崎さんが、男性を紹介する。
「ど、どうも、初めまして。南ゆずと申しますっ」
「こんにちはー。
大学でフランス語とフランス文化を教えてます、
竹田冬樹(たけだ ふゆき)です」