少し歩いた所で
課長がタクシーを拾った。
仕方なくタクシーに乗り込むと
ドアが閉まる前に
外で立っていた
課長がポケットから財布を出し、
お札を一枚出すと、
私の左手に握らせた。

「え?」

手を開くと、樋口さんがいらっしゃる。

「タクシー代。
上司のおごりだ」

「で、でも、これくらい、自分で…」

返そうとした時、
課長がタクシーのドアを閉めた。

窓越しに大宮課長を見ると
真顔で口をパクパクさせている。
何か言ったんだろうけど、
何を言ったのは聞こえなかったし
口の動きからも分からなかった。