「ま、あんたたち、最近微妙だったしね。どうせ次が決まってるんでしょ? 今野君? 『別れるまで待ってますー』って言われてたよね」

中学時代から何度も告白を断ってる人の名前を挙げられ、唐揚げのおいしさが半減した。

「やだよ。『ずーっと好きです』なんてなんだか怖いじゃない。別れるときこじれそう。もっと当たり障りなく、後腐れなさそうな人がいい」

「その考え方がよくないと思うんだけどね……」

緋咲の頭の中には、少し前からよく話し掛けてくる翔太の先輩の姿が浮かんでいたが、それよりも今は貴時のことが心配だった。

「そんなことよりトッキーだよ。考えてみれば昨日のは録画だし、この前会ったときも普通に元気だったんだよね」

何も知らずに無神経なことを言わなかっただろうかと、会話を思い返してみたけれど覚えていない。

「緋咲、将来トッキーの結婚式で泣きそう」

呆れ顔で鏡を見ながら、七瀬はクリームがついていないかチェックしている。

「泣く泣く! 絶対泣く! 考えただけでうるうるしちゃう……。もう母親の気持ちだもん。トッキー、幸せになるんだよ……」

「お嫁さんにもトッキーにもトッキーのお母さんにも迷惑な話だよね」

七瀬に話したおかげで、緋咲の食欲は戻ってきた。

「七瀬、帰りにドーナツ食べに行こうよ」

「ごめん。私、陵と約束ある」

「ええー! 薄情ものー!」

「そんなにかわいいならトッキー誘えばいいじゃなーい」

「トッキーは毎日将棋だもーん」

高校生活はまだまだ新緑に彩られていて、目の前の蝶を追うのに忙しい緋咲には、たくさんのものが見えていなかった。