太陽をまともに見た貴時の目は眩み、暗い玄関口の人影に一瞬気づかなかった。
太陽の残像が消え、見えてきたふたりの影のひとつが緋咲だとわかると、寒さで固まった身体を無理矢理動かして走り出す。
ところが10mほど走って貴時の足は止まった。
緋咲は隣を歩く背の高い影と手を繋いでいた。

「送ってくれてありがとう。じゃあ、また明日」

緋咲は貴時には気づかず、繋いでいた手をほどいて団地の入口へと歩き出した。
ところが背を向けた途端、離したはずの手がふたたび掴まれ、強く引っ張られる。
反動で振り向いた緋咲の唇は、強引な唇によって塞がれ、乱暴に弄ばれた。
貴時の目に、それは大きな黒い影が緋咲を覆って、蝕んでいくように見えた。

「んんんんんーー!! んんーー!!」

抗議の声を上げる緋咲を、男はむしろ楽しそうに拘束する。
身をよじっても頭と背中をきつく抑えられて容易にはほどけない。
ミルクチョコレート色の髪が、武骨な手によって絡まっていく。
ようやく右手を抜いた緋咲は、全身の力を込めて相手の額を押しやって離れた。

「ちょっと! 家の前ではやめてって言ってるでしょ!」

「ははは。ごめん、ごめん」

翔太は明るくて楽しいところが気に入って、緋咲が付き合っている彼氏だった。
しかし最近無神経さが鼻についてきたところでもある。