二週間後、地元新聞に手のひらほどの記事が載った。

『夢の棋士まであと一歩。市川貴時さん、奨励会三段に』

就職活動のために読むようになった新聞のその記事を、朝ごはんの納豆も放り出して食い入るように読む。

『本県出身の市川貴時(いちかわたかとき)さん(16)が、日本将棋連盟のプロ棋士養成機関「奨励会」において三段に昇段した。それにより、10月からの三段リーグに参加することとなり、上位2名に入ると四段プロデビューとなる。
市川さんは直近の成績を14勝5敗として規定を満たした。昇段を決めた対局では「昇段を意識はしたが、目の前の一手一手に集中することを心掛けた」と語っている。
市川さんは6歳のときから地元の将棋教室に通い、その後石浜和之八段に弟子入りして指導を受ける。小学五年生のとき、小学生将棋名人戦で準優勝し、同じ年に奨励会入りした。今でも地元から東京の将棋会館に通って腕を磨いている。
現在、本県出身の現役プロ棋士はおらず、市川さんが年齢制限内にプロ入りした場合、約40年ぶりのプロ棋士誕生となる。』

一緒に載っている写真は、地元の将棋イベントで指導しているもの。
盤上の駒を動かしているその姿は俯いていて、表情ははっきりとは見えない。

緋咲はその記事を切り抜いて、使い込んだクリアファイルに挟んだ。
いくつかの手書きの棋譜と、幼いころからたびたび取り上げられてきた新聞記事が無造作に、けれど大切に保管されていた。
小学生将棋名人戦の切り抜きは少し色褪せているものの、トロフィーを抱えた無表情はまだしっかり見える。

「大丈夫、大丈夫。トッキーならプロになれるよ」

悔しさを押し込めたその顔を、指先でそっと撫でた。
この顔がはにかむように笑うところを、愛しく思い出しながら。