「はあ~。疲れた~」

干物でも炙るように表裏交互に風に当てていると、紀子がグラスにお茶を淹れてやってきた。
憎まれ口は叩いても、そこは母親らしい。
カラコロと氷が泳ぐ涼しげな音がする。

「ありがと。いただきまーす」

這うようにテーブルにつき、お茶を飲んでいると、投げ出していた荷物を紀子が拾い上げていた。

「荷物片付けてからにしたら? これは? どこへのお土産?」

お茶をイッキ飲みしていた緋咲はすぐに答えられず、3秒ほど間を空けて返事をした。

「それはダメ! 職場に挨拶で持っていくやつ。うちへのお土産はこっちの紙袋。あ、アイスも食べようーっと」

簡易包装の紙袋には、家族の人数より少し多い5個のアップルパイが入っている。

「こっちは?」

同じく簡易包装ながら、白い紙箱に入ったものを紀子が持ち上げる。

「それ、市川家用」

シャクシャクとソーダアイスを噛み砕くごとに、冷たさで眉間の皺が深くなる。

「こんなところに放っておいていいの?」

「アップルパイだし常温で大丈夫でしょ。うー、アイス食べたら寒くなってきた」

鳥肌の立った腕をさすりながら、設定温度をピッピッピッと3度上げる。
エアコンの音が急激に萎んだ。

「だったら今届けてきなさい」

「ええー! やっと落ち着いたところなのにー」

アイスの棒をくわえた口を尖らせるけれど、

「今なら沙都子ちゃんいると思うから。仕事の時間になったら悪いでしょ。さっさと行って来なさい」

紀子の正論の前に砕け散る。

「はーい」

緋咲はしぶしぶと立ち上がり、棒をシンクの三角コーナーに放った。