稽古を終えて稽古場を出る頃には、雨はやんで雲に切れ間が見えていた。


そこから光りが差し込み、いくつもの光の帯が地上に降りそそぐ。




私の心にも晴れ間が見えたような気がした。




疲れているはずなのに、軽い足取りで米代二之丁の通りを戻っていると、
人気のない通りに屋敷の門の前でこっちをしきりと窺っている人物が見えた。



「あ、喜代美―――」



喜代美は私の姿を認めると、はねる泥が袴を汚すのも気にせず、あわてた様子でこちらに駆けてくる。



「え、なに?」



驚く私の背後を指差して、喜代美は何かを訴えた。

何だろうと後ろを振り向こうとする私の手を、無言でむんずと掴むと、喜代美はもときた道を走りだす。



「ええっ?ちょ……ちょっと、喜代美!?」



訳が分からず彼に従いながら後ろを振り向くと、



(あ……!)



屋敷の門に駆け込んだとたん、喜代美は声をあげた。



「ごらんください姉上!ほら、虹です―――」







雨上がりの湿った空気のなか、灰色の雲に覆われた空に、くっきりと半円を描いた虹が現れ出ている。


光の帯とともに映し出されたそれは、この戦雲で暗く覆われた会津に希望の光りを与えてくれるようだった。




「……キレイ――――」




つぶやいて、その美しい光景に見入る。

となりに並ぶ喜代美も、束の間の美しさを愛おしむように眺めながら言葉を落とした。



「間に合ってよかった。虹が消えてしまう前に、どうしてもあなたにお見せしたかったのです」



喜代美に視線を向けると、受け止めた彼は優しいまなざしを返してくれる。



(ああ……私の一等好きな喜代美だ)



再びその姿が戻ってきてくれたことに、喜びが沸き上がる。

私も目を細めて微笑んだ。



「ありがとう……知らせてくれて。
喜代美と一緒に見れたことが、何よりも一番嬉しいわ」



繋いだ手を、きゅっと握りしめる。

握り返して、彼は嬉しそうに笑った。





(―――私はあきらめない)





たとえ喜代美が、戦場に赴いたとしても。

いつかきっと、彼と一緒になれる日がくる。

そう信じて。




たとえ暗い闇に覆われてしまっても、この虹のように輝く希望を見失わない。



それをいつも胸に抱いて、前へ進んでゆこう。