この空を羽ばたく鳥のように。





 ……そうなのかな。私は八郎さまを拒みながらも、心のどこかで惹かれていたのかな。


 八郎さまのお顔を思い浮かべる。
 私が見てきた、さまざまな彼の表情を。

 そうすると、胸の中に戸惑うような、不思議な感情が湧きあがる。


 これが恋だったのだろうか。


 想いは嘘だったと聞かされたとき、心寂(うらさび)しいと感じたのも、もしかして彼に惹かれていた部分がそうさせたのかもしれない。



 ――――彼も私と同じだった。



 喜代美を羨んでしまう己が厭わしくてたまらなかった。
 嫉妬と情愛のはざまで苦しんでいた八郎さまの姿は、私の心そのまま。

 そういう意味で、八郎さまと私は同類だった。

 もしかしたら私達は、心を通わせ合うことがあったのかもしれない。
 そしていつも私を見つめていた喜代美は、そのことを敏感に察していたのかもしれない。

 けれどそれはお互いを補い合うものではなく、お互いの傷を慰め合うだけのもの。


 喜代美を求める心とは違う。










 ※情愛(じょうあい)……思いやりのある深い愛情。