「エリカさー」


「うん?」



急にテンションを元に戻した高ちゃんが、手鏡を見ながらリップ片手に話しかけてくる。



だいぶ前にあのサッカー部の元彼氏さんに買ってもらったというオレンジ色のリップはもう見る影もなく、その手には別れて早々自分で買いに行ったというピンク色のリップが握られていた。



高ちゃんの唇が、薄く色付いていく。



「最近変わったよね」


「えぇ?そう?」


「変わったよ。前より変な人になった」


「高子さんそれはないんじゃないですか」



なんて、そう冗談めかしたらいつもみたいにニヤッと笑いながら応戦してくれるんじゃないかと思ったけど。


私の予想は外れて、高ちゃんは真面目な顔で私を指差した。



「それだよ、それ」


「それ?」


「そういう冗談。アンタ、昔はそういうの全然言わなかったじゃない」


「え?そうだっけ」


「そうだよ。変なのはニゲラ狂信者だったってことだけで、あとはすごい真面目だったもん」


「そこは変なのね…」



今はもう、あんまり思い出せなくなってしまったあのニゲラ。


ぼんやりとその面影を思い出しながら、乾いた笑いを漏らす。



あんなにこだわってたのになあ。



忘れていくって、こういうことか。