なんてヤツだとムカ付いたけど、翔馬のことを出されると何も言えなくなる。きっと八神常務はそれを分かっていて翔馬の名前を出したんだ。人の弱みに付抜け込むなんてホント、性格が悪い。


歯ぎしりしながら冷めた視線を向けるも、八神常務は気にする様子もなく、また事後報告でとんでもないことを言い出す。


「あぁ、そうだった。言い忘れていたが、俺もここに住むから」

「はぁ? ここに住む?」

「ここは俺の部屋なんだから当然だろ?」


そんなの聞いてないと抗議しても、私の実家に住んでいた時と変わりないだろうと聞き入れてくれず、挙句の果てに「俺のことが好きなんだろ? 一緒に寝るか?」と神経を逆撫でするようなことを言う。


「ハッキリ言っておきます。今は八神常務のこと、なんとも思っていませんから!」


しかし鈍感というか、無神経というか、彼は全く私の気持ちを理解していない。


「おいおい、照れるなよ。反抗的な態度は会社だけでいいんだぞ」なんて的外れなことを言って笑っている。


八神常務がこのマンションの家主だと知っていたら、ここに住もうなんて思わなかった。こうなったら一刻も早く他の賃貸を探してここを出て行こう。


八神常務をキッと睨んでリビングを出ると、翔馬の部屋になっている洋間に駆け込み急いでドアの鍵を閉める。


そのままベッドに倒れ込み、声が漏れないよう顔を布団に埋めて「八神常務のバカ!」と何度も叫ぶが、その怒りの言葉とは裏腹に、私の目からは悲しみの涙が止めどなく溢れ布団を濡らしていく。


どうして私は、あんな人を好きになっちゃったんだろう……