ーーゆっくりと倒れていく柚が、私にはスローモーションに見えた。
「柚、柚!」
頭上に振り上げられた鉄パイプ。
背中を向けていて気が付かなかった。
蛇が一匹。
卑しく龍の背後をついた。
「…、っひゃははははは」
「っ、」
汚い笑い声。
私はその人影向けて身構える。
「…何すんのよ」
「おっ?お前観月の女あ?」
「……違うけど」
「じゃあ何?黒龍の姫、じゃねえなあこいつだもんな近藤の女は」
一般人、というにはいささか目がキマりすぎている。
男の口から漂う独特の匂い。
「…ヤク中」
「あ?」
一言小さく呟けば、
案の定男の耳は見事にそれを拾い上げた。
快楽に任せてソレに嵌れば、体の痛感は麻痺し
反対に一部が酷く敏感になる。
如実に見て取れた。
クスリに手を出した人間の特徴だ。
悪寒が走った。
「でもよく見れば可愛いな、あんた」
「触らないで」
ーー苦しい記憶。
私の負の記憶。
その中心にはいつも
クスリと、アイツがいる。
「よぉし」
「…」
「いい提案があるぞ」
「…は?」
「お前が俺の肉便器になる」
「…」
「そしたら命は助けてやるよ」
「…」
「悪くないだろ?」



