「悪い、遅くなった」
「いや、いや全然いいけど、」
ぐったりした様子の伊織が、柚から私へと運ばれる。
伊織の制服はあからさまに乱れていた。
柚が応急処置を施したのであろう、不器用ながらもボタンは全て止まっている。
…こういうのを、私がとやかく言うのも違うんだろうけど。
近藤は、正気を保っていられるだろうか。
今更ながら心配になった。
伊織の体からふんわりと漂う
男物の香水の香り。
何を聞かずとも想像は容易い。
友人の私でさえこんなにも大きな憤りを感じるのに。
伊織の、たった一人の異性である近藤は
私の何倍、大きな憤怒と憎悪を抱くのだろう。
「…芹那」
「…うん」
「爽に会わせるな」
「……うん」
柚もそれを分かっていて。
だから私も頷く。
隠すべきではない。
だけど。
今近藤に明かせばきっと、何かしら壊れてしまうものがある。
ここに来てまだ日の浅い私にも分かった。
私は必死に頭を動かす。



