烈と柚の会話が進む。
交わされる言葉が一言増えるたび、
柚の表情には濃ゆく影が落ちているようだった。
雨足は容赦なく強まっていく。
「ーー芹那」
そんな意地の悪い空模様に
今朝の天気予報を思い出そうと躍起になっていると
烈との通話を終えたらしい柚が私の方に足を向けていた。
「…何があったって?」
「帰るぞ、一旦」
「…え?何もなかったの?」
「…いや。伊織が拉致られたらしい」
「なら帰る意味がないでしょう」
「お前は連れて行けない」
柚の辛そうな表情にハッとした。
私は自分の立場をすっかり
忘れかけてしまっていたことに気がつく。
ーー連れて行けない。
今の私には絶望的な言葉だ。
あの子を助けに行けない。
私は行ってはいけない。
これほど無念なことが、他にあるだろうか。
「駄目だ」
「時間ロス」
「早く乗れ」
「ここから行った方が早いでしょ」



