伝説に散った龍Ⅱ












棗と私の、並々ならぬ覚悟と恐怖心



それらが複雑に混ざり合う空間。



なんとも居心地の悪い其処で、棗はゆっくりと話し始めた。






































「迎えに来たんだ」



「…は?」



「俺はお前を迎えに来た」



「棗、」



「帰ろう?セリナ」



「ちょっと待ってよ棗」



「皆待ってる」



「自分が何言ってるのか、分かってる?」





私で私の耳を疑った。



なんて?



棗は今、



…なんて言った?



『迎えに来た』?



誰を?誰が?


































「あの日、お前の手を取らなかった。背中をただ見送った俺達のこと。



許してくれなんて言わない」



「なつ、め」



「ただ俺には、上二人の真意が分からなかった。お前がどこにいるのか。お前がちゃんと生きているのか。お前がどうして戻ってこないのか」



───二人は知ってたみたいだったけど。





そう付け足した棗に、私の頭はショート寸前。





「…」



「かと言って何も言わないあの人らを責める訳にも行かなかった。結局、俺がお前を諦めることが最適解なんだと思ってた」



「…、」



「お前はチームを見限って、俺らは見限られたんだろうな」



「…棗」



「そう思えば筋が通るんだもんな」



「…」



「それに。彼処にお前のこと嫌いな奴なんていないことくらい分かってたし」



「…、」



「…お前は悪くないんだって、皆ちゃんと知ってたよ」





───悪いのは自分たちだったんだ、ってこともな。























苦しそうな棗を見れば、それが私にはもっと苦しくて。



直視していられなかった。



だから眼を逸らせば、棗が無理矢理私の視線を自分に合わせた。


































































「『あいつに見限られるようなチームなら、とっくに潰れてんだろ』って。
あの人が言ったんだ」



「…っ、」



「芹那は見限ってなんかない」



「…ミオが言ったの?」



「うん。ぶっちゃけあの人が一番苦しそうだったけどな」



「…なにそれ」



「『迎えに行って来い』って。昨日言われた」





────俺も何が何だかわかんなかったけど。






そう言って妖しく口角を上げた棗に、最早私は足が竦む思いだった。



棗の言葉に、私の理解が追いついていかない。



頭の中で、何度も反芻する棗の声。




















































『芹那は見限ってなんかない』
『迎えに行って来い』























…嘘でしょ。