落ち着いた声音で呼ばれた私の名前。
私はゆっくりと振り向く。
目尻一杯に張った雫を、零さぬように。
「…ミオ」
「…棗のこと殴ったのはお前か?セリナ」
「だったらどうする」
「…だとすれば、お前も大概だな」
「…あんたたちのせいでしょう」
ミオが、その真っ黒な瞳で私を見つめるから。
私は彼をそのまま真っすぐに見つめ返すことしかできない。
聞きたいことがあった。
この男に。
『どうして』と
平手打ちをかましてやりたかった。
「俺たちのせいか」
「…わかんない」
「なんで殴った」
「関係ないでしょ」
本当はこんなことを言いたいんじゃないのに。
そう思っても、思いとは逆の言葉ばかりが口をつく。
「関係なくねえだろ」
「…どこが」
「お前」
「何よ」
「ちょっと付き合えよ」
また何を言い出すのかと思えば
今度は私に向かって手を伸ばしたミオ。
まるで『掴め』と言わんばかりに。
覗き込んだ表情はいつもどおりで。
掴めない。
「…こっち向け」
「……誰も呼ばないの」
「ああ」
飄々とした背中。
大きい。
前見たときより一層大きい。
嗚呼。
「お前も」
「…なんか言った?」
お前も、変わんないのね。
私を、
あの頃と同じように呼ぶのね。
「セリナ」
「…うん」
私の気も知らないで。



