「『良かった』はこっちの台詞だバカ」 「…え」 「………良かった…」 泣き声にも似たその声に 私ははっきりと覚えがある。 違うかもしれない。 私の思う“彼”ではないかもしれない。 というか、現実的にはそうでないほうがありがたい。 なのに ほんの一瞬だけれどそうかもしれないと思えば。 どうしても、その考えが振り払えなくなった。 ───この声、 この、香水 右腕に入った、大きな蝶の刺青。 ───なんで。 「なんで」 思わず、呆けた声が出た。 どうしてここにいるの。 ────────棗(ナツメ)