「俺だけじゃねえよ、皆だって」
「うん」
「こんなん納得しねえよ!」
「うん」
「戻りてえって言えよ!!」
揺れていた。
戻りたい。
戻れるものなら、私だって戻りたい。
長い間封じ込めていたはずの赤裸々な思いが
棗の声を聞く度により一層強くなっていく。
「…潮時なんだよ」
「…っ、んな言葉いらない!」
「棗」
「…そんな理由なら俺は帰らない」
「棗、」
「引きずってでも連れて帰る」
「…棗、それ以上は駄目」
「…だからなんで!」
「それ以上は本気で黙らせる」
────いくら相手あんたでも、容赦しない。
「セリナ、」
棗が、生唾を飲む音が聞こえて。
静寂の中、月明かりが私たちを照らし出すから
棗の視線に応えるように
まだ濡れている砂利を、わざと音を鳴らして踏んだ。
「セリナ、」
切なげな表情。
私の言葉が
棗のことを
狼のことを
そして、自分のことを傷つけている。
それは、今この瞬間も。



