「なあおい、聞けよ」
「…」
「…あんまナメてっと」
「…」
「痛い目見るぞ?女」
なかなか返事をしない“伊織”に、男たちは存外早く痺れを切らしてしまった。
聞こえないのか?
耳がないのか?
殺すぞ
犯すぞ
しまいには彼女の腕を、3人がかりで押さえつけようと手を伸ばし出すので周りも焦る。
明らかに度を超えたナンパに
至極当然とでも言うように『警察』と言う言葉がどこからともなく飛び出した。
そのおかげで
一瞬、彼女に向けた男たちの手が怯んで
俺も加勢しようと
すかさず足に力を込める。
ーーしかし。
彼女に、
伊織に
本来、他の誰の手も不要であったことを
数秒後、俺は思い知ることになる。
「、な」
柔らかく、男の手が振り払われて
一瞬呆気にとられたように固まった男は、すぐに臨戦態勢に入った。
「…にすんだよ」
「邪魔」
「あ?」
…メンチ切ったぞ、あの子。
呆気に取られたのは、きっとナンパ野郎だけではなかったはず。
まさか一目惚れした相手に、
ものの10分で惚れ直すことになるとは。
「もっぺん言えよ」
「邪魔」
「あ?殺されてえのか」
「芹那ちゃんが来ちゃう。退いてて」
「…誰ちゃんだか知らねえけど、それは俺たちに向かって口聞いてるってことでいいんだな?」
「…そこ、芹那ちゃんの席だよ」
…驚いた。
年一の衝撃だった。
俺の瞳孔が揺れる。
先程とは、明らかに異なる揺れ方。



