「……」
声をかけようか、かけまいか。
そんな状況下で、俺もしばらく健全な欲望と不健全な常識の間で揺れていた。
答えは出ない。
なんせ、ナンパなどしたことがなかったのだ。
これは皮肉でもなんでもない。
本当に、ナンパ未経験者なだけ。
本当さ。
ーーそれから、10分ほどが経っただろうか。
腹痛でも催しているのか、未だトイレから戻らない“芹那”を心配する“伊織”は
しきりに店内の奥の方を気にしている様子。
そして、そんな彼女に
なんとも不躾な犬たちの銃口が向けられたのは
ちょうどその頃だった。
「いま、ヒマ?」
桜色の空気が響めく。
先程まで彼女にほの字であったはずの周囲の視線の多くが
なんとも薄情に、彼女からすーっと逸らされた。



