───私は、自分のしたことを忘れない。
そして。
アイツがお前たちにしたことも、忘れない。
これはあまりにも重い十字架。
私一人で背負うには重すぎる。
だから一層、大切な人たちに『一緒に背負って』などと
軽々しく口には出せない。
逃げることしか。
「棗、聞いて」
絞り出した声はこんなにも、か細い。
───お願い、これが、最後だから。
口には出さなかった言葉があって。
あまりにも切なげなその響きが、私の涙を誘った。
「ゼッツー、売ろうかなと思ってる」
「、っ」
「もう、戻れないの」
「…お前」
「私は、お前たちから離れたい」
私と棗を取り囲む空気の温度が一気に下がるのが分かった。
「ちょっと待てよ、セリナ」
「…ごめんね」
「俺たちは戻ってきてほしいと思ってる、それこそ皆同じ気持ちだ」
「…うん」
「お前の気持ちも無視できない、だけど、」
「うん」
「……お前は、狼に戻りたくねえのかよ」
「…大好きだよ、皆のこと。この世の何より」
「っ、」
「これだけは、嘘じゃない」
「じゃあ戻ってこいよ馬鹿セリナ!!」
「……うん」



