「え、なんで」
「すぐ迎えに来るから」
「ちょ、待ておい」
「時間が無いの!ごめんね雄大くん、よろしく!」
止める間もなく駆け出したセリナの背中を呼び止めるが、
当のセリナは『ごめん』と『よろしく』を繰り返すばかりで、立ち止まる素振りもない。
そのうち飄々と伊織ちゃんを担ぎ出したので、俺はとうとう頭を抱える。
「っ、おい!」
「目覚ましても私の知り合いだって誤魔化しといて!」
「待てって、」
「あ、あともう一人はそのままほっといていいから!」
あっという間に見えなくなった後ろ姿に苦笑する。
まったく。
懐かしがる暇すら与えてくれやしない。
「ーーさてと」
一度冷静になって辺りを見渡した。
観月柚を担ぎ上げる。
見た目に反して、程よく筋肉のついた体は想像以上の重量だった。
「…おうい」
「…」
「観月くーん」
「…」
「……派手にやられてんな」
後頭部からの出血は既に止まっていて、さほど量も多くはない様子。
…気を失ってるだけか。
数時間寝かせておけば目を覚ますはず。
経験上、なんの根拠もないがなんとなくわかること。
否応なしに思い出す、
あいつが居た頃の記憶。
「変わんねえな」
お前は、いつまで経っても。
ーーひらりと踵を返し、建物を後にする。
とその前に、もう一度その場を振り返った。



