先生の言葉を都合のいいようにしか受け取れなくなっていて。


「わかるよな。まともな大人なら、ここで、お前をさらったりしない」


ならないで、先生。

まともな大人じゃなくていいよ。


――いっそ、狂ってよ、先生。


「頭の中で、どれだけお前のことが欲しくなってても」


ねえ、先生。


「宇崎といると、いい年してカッコつけちまうんだ。お前に気に入られようって、よこしまな感情抱いてる。いつも以上に。いつもと違う意味で先生らしくなれなくなってる」


恋って。


「歪んでるよな、ほんと。口では家に送るなんて言って。表面上、面倒見のいい先生装って。どこかで、この状況をチャンスだとか。助手席に座る宇崎のこと独り占めしたいとか。いっそ、このまま帰したくない、なんて考えて。そんな奥底にしまっておいたはずの本音をお前に告白されてあっさり吐いちまうとか。情けないよ自分が。人として半人前どころか。こんなの教師の器じゃない」


恋ってこんなに、人を歪ませてしまうんですか。


だったら。


もっともっと歪んでくださいよ。


ね?


「栗原先生は。私のこと。好きですか?」
「…………」
「先生、」
「言えばもう戻れなくなる」


戻らなくていい。押し殺さないで。

なにを捨てても。その感情だけは育てて。


「言ってください」


その言葉が欲しいんです。

欲しくて欲しくて、たまらないんです。


渇いてるんです。


先生が、足りないんです。


「言って、くださいよ」