こじれた恋のほどき方~肉食系上司の密かなる献身~

俯いたまま指先で涙をさっとぬぐい、スンと鼻を鳴らして毅然と振舞おうとしたけれど、先ほどの異動のことや、木崎さんの薄情な態度に頭がぐちゃぐちゃになっていた。

「今ぶつかったのが泣くほど痛かったのか?」

そんな冗談に笑える状態じゃない。「失礼します」そう言って横をすり抜けようとした時。

「おい。待てって言っているだろう! 凛――あ、最上さん……」

後ろから私を追いかけてきた木崎課長の気配がしてハッとなる。

「最上さん、お疲れ様です」

今まで取り乱していたくせに、そう言いながらさっと仕事モードに切り替えて木崎課長が歩み寄ってくる。

「おいおい。部下を泣かせたのはお前か?」

「い、いえ。そんなことは……」

木崎課長は最上さんより年上で役職もあるけれど、口調からして立場的には下のようだ。
社長の息子であることを知っている証拠だ。木崎課長はどことなく気まずそうな顔をして頭を掻いた。

「酒井、とにかく話の続きをしよう。仕事が終わったら“陽だまり”で待っている」

早くこの場から立ち去りたかったのか、木崎課長はそう言って歩いて行ってしまった。