こじれた恋のほどき方~肉食系上司の密かなる献身~

そんなある日、彼女の父が重篤な脳出血で倒れた。

スマホを持つ手を震わせながら放心している彼女の姿と、今は亡き母が出先で倒れたという知らせを聞いたときの父の姿が重なってつい動揺してしまったが、彼女はこんな状況でも毅然としようとしていた。強がって、虚勢を張っている姿を見ていたら……もうたまらなくなった。

――い……や、いや……お願い、私をひとりにしないで。

それは、初めて聞く彼女の魂の叫びのようだった。

今まで愚痴や泣きごとひとつ言わない酒井が、なりふり構わず泣きじゃくって「ひとりにしないで」と俺にしがみついた。「お前はひとりじゃない。俺がいるだろ」そう言ってきつく抱きしめたが、混乱していた彼女に俺の思いが伝わったかどうかはわからなかった。

必ず、この手で守り抜く。酒井だけでなく、彼女に関するすべてを。そう心に誓った――。