こじれた恋のほどき方~肉食系上司の密かなる献身~

そんなある日、病院から家に帰ると昔から父が懇意にしている料亭旅館“鳳凰亭”の店主である真人さんが父のことを聞いたらしく、心配の電話がかかってきた。

『親父さんのこと、うちの芸者さんから聞いたんだよ。すまなかったな、知らなくて……凛ちゃんは大丈夫か?』

真人さんは私のことを五歳の頃から知っていて、学生時代に鳳凰亭で給仕のアルバイトをしていたこともあった。社会人になってからも父とたまに顔を出してはいたけれど、最近はご無沙汰だった。江戸っ子気質の粋な人で、本当の兄のように慕っていた。

「はい。すみません。ご心配をおかけしました。父はまだ意識が戻りませんが、きっと大丈夫です」

鳳凰亭は色んな企業がお忍びで利用する料亭だ。芸者さんから話を聞いたということは、すでに界隈では噂になっているということだ。