家の掃除全般は私の分担で、最上さんは一見神経質そうだけれど、書斎のデスクにはいつも乱雑に資料や書類が山になっていた。それに、彼と暮らしはじめて気が付いたことがある。

たぶん、最上さんは不眠症だ。

最上さんは書斎のソファを使って寝ると言って、私に寝室を譲ってくれた。けれど、彼が熟睡して寝ているところを一度も見たことがない。それにあの夜以来、最上さんはむやみやたらに手を出してくることはなくなった。家で一緒にテレビを観たり、食事をしたり同じ時間を健全に過ごしていると、一緒に過ごす時間が楽しいとさえ思う。

捨て犬が慣れない飼い主と時を過ごして心を開いていくように、私もまた最上さんを信じるようになっていった。だからといって、そこに恋愛感情があるのかと問われれば自分でもわからない。最上さんはきっと好きになってはいけない相手、私は相応しくない相手。頭の中ではわかっているのに、彼に触れられると胸の高鳴りを抑えることができない自分がいた。