こじれた恋のほどき方~肉食系上司の密かなる献身~

『三十二歳だそうだ。年もお前とちょうどいいじゃないか、実はもうお前の顔写真は向こうに渡してあるんだ』

話に食いついてきたと思われたのか、急に父の口調が明るくなった。

「ちょ、勝手なことしないでよもう……」

相手の顔を知らないのに、向こうは私を知っているなんてフェアじゃない。けれど、こんなことでへそを曲げても仕方ない、と文句の言葉を呑み込んだ。

お見合い……か。

人を好きになることにいつまでも背を向けていたくはない。いつか素敵な人と出会って大恋愛の末の結婚……なんて、純粋に女性らしい憧れを抱いているのも事実だ。木崎課長との関係も、ぬるま湯に浸かっているようでいつかは終わりを迎えるのはわかっている。この際、父の言う“会わせたい人”とやらに会ってみるのもいいかもしれない。後ろめたい理由はいくらでもある。それらから逃げるためにお見合いをするのも気が引けるけれど、「会うだけなら」と父の申し出を承諾した。

『お前は昔から聞き分けのいい子だったから、きっとわかってくれると思っていたよ』

すっかり上機嫌になって父は電話を切った。