「私が人を信じられなくなったのは、たぶん学生時代の失恋がきっかけです。それから会社に入って仕事に没頭するようになって、信じられるのは自分だけだと言い聞かせていました」

こんな自分の弱さをひけらかすようなこと、誰にも話したことないのに、最上さんの目に吸い寄せられるように、私は過去のことを吐露していた。

「入社一年目で初めて手がけた商品開発プロジェクトで、不備があったんです」

たぶん、この話は最上さんなら知っているはず。その証拠に、彼の手がピクリと止まった。

「すでにもう市場に出回っているというのに、その商品を今後どうするかの会議で商品を回収せず、リニューアルして再販売する結論に納得できなくて……上層部を含めた大勢の先輩、上司の前で全回収するようにと意見したんです。馬鹿ですよね……新人のくせに。でも、それじゃお客様の信頼を失うことになると思ったんです」

「なるほどね……」

「その時の会議では再販する方向で決定したと思ってたんですけど、後日、全回収してリニューアル商品を企画する案件が部署に届いたんです。私はやっぱり自分の意見が通ったんだって、嬉しかったんですけど……それから周りの目が変わったというか、正直部署の社員全員が敵になった気分でした。きっと面倒くさい仕事増やしてって思われたんでしょうね」