「あの男といると、お前はどんどん自分の殻に閉じこもってしまう。本当の自分を見失う。お前は何から逃げているんだ? 何が怖い?」

「べ、別に逃げてなんか――」

ない。そう言いかけて口が止まる。最上さんの言うように、自分を見失うことで現実逃避していたところはあったのかもしれない。なにから?

「お前は人を信じることから逃げている」

言葉を失った。手にグラスを持っていなくてよかった。きっと力が抜けてするりと落としていただろう。

最上さんの視線は、私の心を丸裸にするようだった。抵抗する言葉も見つからない。自分でも気がつかなかったことを指摘されて、私はもう観念するしかなかった。