「ちひろー!」
「沙耶おまたせっ」
肩を少し露出した無地の赤い洋服にジーンズを着こなす沙耶は昼間より断然大人っぽい。
「やっぱりさ、ちひろって何着ても似合うよね〜。いるだけで様になるっていうか」
突然の沙耶の言葉に少し顔が曇る。
「んー…そうかな。」
私は自分の顔が嫌い。
醜い。
「まったく、自分の可愛さに気づいていないなんて罪だね。」
そう笑ったちひろは、私の手を引いた。
扉を開けると、別世界に来ているような感覚に襲われる。
かなり暗い室内にカラフルなライト。
頭に響き渡るぐらい大きく鳴り響くテンポのいい音楽。
この空間にいる人、誰もがお酒を片手に音楽に合わせて身体を動かす。
「お!お姉ちゃんなんか一緒に踊らない?」
どこからやって来たのか、突然絡んできた男に沙耶が耳打ちをしている。
クラブの音楽は大きすぎて、耳元じゃないと何も聞こえない。
そこがクラブの売りの1つでもあるんだろうけど、私はあまり好きにはなれない。
暗い室内にお酒が入ってる男女。
会話はお互い耳元という近距離。
その場の勢いに流される男女は多いだろう。
いろんな意味で。
「ちひろ!お酒奢ってくれるって。行こ!」
沙耶は私に耳打ちをした後、ウィンクして男の腕に自分の腕を絡ませて歩き出した。
もう1人一緒にいた男は私の肩に腕を回し、沙耶たちの後ろからついていった。
「1杯目はやっぱりビール…かなぁ?」
メニュー表を見ながら悩んでいる沙耶を横に私はウーロン茶の入っているお酒を頼んだ。
「かーんぱーい!!」
1口ビールを呑んだ沙耶は目を輝かせていた。
沙耶は男というよりは、お酒目当てだからやっとお酒が呑めて幸せなんだと思う。
美人の持ち腐れというかなんというか。
沙耶は男の距離なんて気にしてないけど、やたら顔の近い男を無視して私はお酒を口にする。
「二人とも本当に可愛いよね〜。君は踊らないの?」
男の問いかけに私は首を横にふる。
「私は座ってみておこうかな。」
私の隣に腰をおろした男の質問を適当に流していると、いつの間にかお酒がなくなっていた。
無意識に呑んでいたらしい。
「あ、ついで俺買ってくるよ。」
そういうと、男は私の返事を聞く前にスタスタと人混みの中に消えていってしまった。
行っちゃった…。私もトイレに行ってこよう。
今夜は、あの人でいっか。
なんて考えながら人混みをかわし、目的の場所を目指す。
もう少し…。
ドンッ…!
「いったぁ…。」
人にぶつかったんだろうなぁ。
ズキズキする鼻を抑えながら目を開く。
「え、あ。ごめん。大丈夫??」
とっても綺麗な人だと思った。
顔のパーツパーツ全てが整っていて、透き通ったような声をしていた。
高めの身長。
グレー色髪に、青色のメッシュが2本。
こんな綺麗な人は産まれて初めてみたかもしれない。
「あのー、大丈夫?ごめんね。」
その人の声でふと我に帰る。
「あ、はい。大丈夫です。私こそすいませんでした」
軽く頭を下げ、私はトイレへと向かった。
