そこからは一貫して社長のペースだった。砕け過ぎず堅すぎずの態度で真木の警戒を解いていき、戸惑いまくっていた真木を上手に乗せて、話を引き出す。
 途中から真木も吹っ切れたのか、饒舌に持論をぶちまけていた。最後には敬語も砕けて、そうなんすよそうなんすよと、体育会系丸出しで社長の肩を叩きだす始末。

 へろんへろんに酔っぱらった真木はお迎えに来た松原さんの高級車にひたすら感動し、底なしに明るい声で「きょーはごちそうさまっしたっ」と敬礼してから、自分の築十年のアパートのエントランスに吸い込まれていった。明日、我に返った彼の精神状況がとても心配される。

「面白いヤツだったな。久しぶりに楽しい酒だった」

 後部座席に深々ともたれた社長は、言葉通りゆるい笑みを浮かべてご機嫌だ。普段の酒席は肩肘張るものばかりで疲れるだけだろうし、隣から見ていても今日の社長は楽しそうだった。多分真木とも性格が合うんだろう。

「付き合ってるのか?」
「まさかまさか。ただの気の合う飲み友達ですよ」

 しょっちゅう飲みに行ってるおかげで、私と真木が付き合っていると誤解されていることは割とよくある。よくありすぎて面倒になり、面と向かって聞かれればはっきりと否定するが、こちらから積極的に否定して回ったりもしない。女好き真木はどうしているのか知らないけど。

 ふうん、と気のない返事をした割には、納得していない様子だった。

「お前はそうかもしれないけど、あっちはどう思ってるかな」
「何言ってるんですか。真木だってそう思ってますよ」

 反論する私を横目で見る。

「お前、意外とモテないだろ」
「セクハラです」
「昨今のセクハラに対する定義は狭すぎる。これじゃあ普通の世間話ができない」
「どこのエロ管理職の意見ですか」

 今日は私も相当量のお酒が入っている。白い目で見返すと、社長は楽しそうに笑っていた。

 それが普段の社長からは想像できない幼い表情で、なんだかもったいなく思えて、束の間じっくりと目に焼き付けた。