“デート”という言葉に思わず口元が緩む。結婚してから一緒に帰ったり、出かけたりするのが当たり前すぎて、デートするなんて改めて言葉にすることなんてなかったから。



「あ、あんずさん」


もみじくんの会社に着いて、いつも通り受付の横で待っていれば、もうすっかり顔なじみの柳下さんに声をかけられた。


「瀧ならもう来ると思いますよ」

「あ、ありがとうございます」

「デートでしょ」

「はい!」


デートという響に思わず「はい!」と大きな返事をしてしまい広い会社の中に声を響かせてしまった。恥ずかしいことこの上ない。

と、


「あんず、お待たせ」


柳下さんの後ろからもみじくんが歩いてくるのが見えた。今の聞こえてたかな?なんて顔が熱くなる。


「じゃ、俺は失礼します」

「あ、はい」


もみじくんがこちらに着くのとほぼ同じくらいに「じゃあ」と言って柳下さんは足早に帰って行ってしまった。


「また、柳下に絡まれてたの?」

「絡まれてないよ、もうすぐもみじくんが来るよって教えてくれました」

「へー」

「もみじくん、柳下さんに私と会うこと話たんですか?」

「いや、話してないけど」

「あれ、でもなにも聞かずにデートでしょって言われたので」

「僕が柳下にそんなこと話すわけないでしょ」


ぎゅっと、もみじくんに指を絡め取られ、ズボッと。もみじくんの着ていたコートのポケットに押し込められた。


「てか、僕たちのこと知ってる人なら言わなくても分かるよ。僕たち、誰が見たってそうだから」

「……なにがですか?」


もみじくんは、口角を上げて「内緒」と悪戯に笑った。


「毎年この日は必ずデートしよう。だって今日は、」