【完】無自覚な誘惑。〜俺だけを見てよ、センパイ〜



「あ、でも一度だけ、高校を入学してすぐの時に道に迷ってしまって、6時を過ぎたことがあるんです」



あの日のことは……今も記憶に新しい。

もともと少し方向音痴なところがあり、一度道を誤ってから戻れなくなってしまった。



「その時両親が警察に連絡したみたいで……すごく大ごとになってしまって……」



私は携帯も持っていないから連絡手段もなく、お父さんとお母さんも焦ったんだと思う。



「結局、迷子になっていたところをすごい形相をしたお兄ちゃんに発見されました……」



その後、泣きながらお父さんとお母さんも迎えにきてくれて、門限は絶対に守らなきゃと改めて心に誓った。



「あの時は家族にも警察の人たちにも、申し訳なかったです……」

「……ふっ、なんですかそのエピソード」



和泉くんが、吹き出すように笑った。

あははと声をあげて笑っている姿に、見入ってしまう。

こんなふうに笑う和泉くんの姿を見たのは初めてで、なんだか感動してしまった。


笑っている姿も、かっこいいっ……。