【完】無自覚な誘惑。〜俺だけを見てよ、センパイ〜





車に乗る直前、ふと部員さんたちのほうを見たときだった。



「あっ……」



和泉くん……。

なぜかこっちを見ていた和泉くんと、バチリと目が合った。


けれど、すぐにそらされてしまう。


……最後に、挨拶したかった気もするけど……しないほうが、いいよね。


この合宿が終わったら……和泉くんとはもう、接点がなくなってしまうんだろうな。

それでいいと思いながら、私はぬぐいきれない寂しさを抱えたまま、車に乗った。


ゆっくりと、発進する車。



「家に着くまで寝てていいからな。疲れただろう」



運転席に座るお兄ちゃんが、優しくそういってくれた。



「ううん。たくさん休ませてもらったから平気。それに、楽しかったよ」



笑顔を向けると、そんな私を見てお兄ちゃんも安心したように笑ってくれた。